岡山県農林水産総合センター農業大学校で講義をいたしました
2022(令和4)年9月27日、岡山県赤磐市にある岡山県農業大学校にてクラカグループ専務冨本とクラカアグリ課長牛丸が特別講師として講義を行いました。
岡山県農業大学校は、農業の実践教育を通して、将来の岡山県農業を担う青年農業者を育てるとともに、農業に関係する団体や企業等を支える人材の育成、農業経営に必要な免許や資格を取得するための研修を行う事を目的として設置されました。
例年クラカグループへ講演依頼があり、次代の農業の担い手育成の為、協力をさせていただいております。
まず冨本より市場流通をテーマに卸売市場の役割や機能等について農業、流通に関する雑学を交えつつ説明させていただきました。
近年卸売市場経由率は低下の一途をたどり、青果卸売市場の経由率は1989(平成元)年に82.7%でしたが、2019(令和元)年に53.6%になり、過半数割れも懸念されています。売上も平成3年のピークの5兆円から3兆2千億万に落ち込んでいるという現状です。
その要因の一つとして卸売市場(中間事業者)を経由しない直売所や青空市場などの増加が挙げられます。このような施設は全国各地で24,000から25,000店舗あると言われ、その数は大手コンビニエンスストアに匹敵する店舗数です。売上も約1兆円になるとされていることから、卸売市場率の低下に影響を及ぼしていると推測されます。
さらに食品EC市場も2020年の売上が2.2兆円に達していることから、卸売市場を取り巻く状況は年々厳しくなりつつあります。
こうした状況下においてもクラカグループは成長を続けています。
理由は野菜需要の変化にすばやく対応したことにほかなりません。
単身世帯の増加、女性の社会進出、高齢化により食材を買い自分で調理をするという『内食』から飲食店で食事をする外食、お弁当やお惣菜を買って家で食べる中食、といった『食の外部化』が進んでいます。
それに伴い加工・業務用野菜の需要も増加し、現在では主要野菜13品目の消費量の約6割を占めると言われています。
こうした需要に対して毎日価格の変化する卸売市場では加工、業務用野菜のお客様(実需者)が求める『4定(定時・定量・定価格・定品質)』という安定供給に対応することができません。
そこでクラカグループでは加工、業務用野菜の需要増に応えるカット野菜部門、一定の価格で一定の量を供給する『契約取引』を進め、国産野菜使用の要望増に応える農業生産部門のクラカアグリを設立しました。
この2つの部門を運営する体制となったことで安全・安心な国産加工・業務用野菜を提供することが可能となりました。
講義中、冷凍餃子の生産量が増え新たな国民食になりつつあることや米の消費量は減っているがパックご飯の消費量が10年間で7割も増えているなど農業や農産物の流通に関しての雑学が披露されました。
その中でも聴講生の皆さんにとって身近な問題として感じられるのが基幹的農業従事者が1999年の233万人から2022年には122万人になり、48%も減少している、ということでした。(※参考サイト:「農業従事者数(のうぎょうじゅうじしゃすう)の変化(へんか)をおしえてください」(農林水産省))
聴講生の皆さんには農業大学校で技術や知識をしっかり身に付け、将来の日本の農業を支えていただきたいと思います。
休憩をはさんだ後、農業生産部門であるクラカアグリの牛丸から『加工・業務用野菜の生産拡大に向けて』というテーマで講義をいたしました。
2016年の設立当時、土地も農機具もなく、ゼロの状態からあちこち走り回り、ようやく生産できるようになるまでの体験談や野菜を育てる上での実践的な話など、これからの農業を担う聴講生の皆さんにとって興味深い話題だったようです。
講義冒頭でクラカアグリの紹介動画を見ていただき、現在クラカアグリが取り組んでいる課題やそれに対する取り組みについて説明いたしました。
農業分野では高齢化の進行が深刻な問題となっています。
農業就業者の平均年齢は67歳と言われていますが、現場では70歳を超えた方が一生懸命自分の農地を守っているというのが現状です。
クラカアグリでは地権者の方から土地をお借りして農業活動を行っていますが、80歳や90歳に近い年齢の地権者の方から土地を貸していただくことも珍しくありません。
また中山間地域に目を向けると管理をする人がいなくなったため、草木が生い茂り荒れ地になっている農地も見受けられます。
こうした課題にもクラカアグリは取り組んでいます。
現在お借りしている土地の90%以上が水田です。主に米を作る水田は水が溜まるような構造になっているので、野菜を作る圃場(ほじょう)と比較すると水はけがよくありません。水はけの悪い所で野菜を作ると病気が出やすく、作業性も悪くなります。
そこで根が湿害に合わないよう高い畝を作ったり、圃場の周りに額縁明渠(溝)を作り、なるべく早く圃場の外へ水を流せるようにするなどの排水対策を取り、水田をうまく活用した野菜の生産を行っています。
また野菜作りにおいてとても重要な土壌にも改良を加えます。近隣の牧場から牛糞堆肥を頂いて豊かな土壌づくりに努めています。
こうした手間をかけることで野菜のおいしさをグッと引き上げることができます。
続いて契約取引を実践できるよう加工・業務用に特化した栽培がテーマとなりました。
契約取引において一番難しいところは決められた数量を必ず納品しなければならない、ということです。
台風が接近すると強い風雨のため収穫ができなくなる場合があります。しかし台風が来たから納品はできません、ということでは契約取引は成り立たなくなってしまいます。
そこで通常は1日に150から200コンテナの青ネギを収穫しますが、台風が接近する前に数倍の量を収穫し、国の交付金事業で建設した集出荷貯蔵施設に保管します。
そうすることにより天候に左右されない安定的な需給調整が可能となっています。
作業の簡素化を図るため、一定の重量以上のキャベツの無選別での鉄コンテナ出荷や、複数回の定植の手間を省くため青ネギの根を残して鎌で刈り、1年間に3回の収穫をするなど大幅な労働時間の削減を行っています。
さらに近年しばしば耳にするようになったスマート農業や農業のIT活用についても話が及びました。
クラカアグリでは現在岡山県南部の5つの地域に圃場をお借りしています。圃場の地域が増えたことにより一番遠くの圃場へ移動するのに車で約1時間かかってしまい、圃場間の移動時間がネックとなっていました。
この問題を解決するためクラウドサービスを活用するなど、スマート農業を積極的に取りいれました。
利用しているサービスは各圃場の場所や作業状況を記録することができるので、サービス導入以前は圃場の場所が分からず他の圃場を耕したりということもありましたが、今では20名の従業員全員が情報を確認、共有することができます。
クラウドサービスの情報をもとに集中的に作業を行えるようになったことで生産効率がアップし、管理コストの削減に大きな役割を果たしています。
また直進アシスト付きトラクターや定植機、防除用ドローンなどを導入して重労働を少なくし、より働きやすい環境を整えることも大切なことだと考え、作業の機械化にも取り組んでいます。
クラカアグリでは2年前からインターンシップを行っていますので、組織農業とはどういったものか?を体験していただければ、と思います。
興味のある方はぜひ参加してみてください。
最後に再び冨本よりEC販売についてお話させていただきました。
クラカアグリでは今年から日本最大の産直サイト「食べチョク」にてスイートコーンの販売を始めました。
農業は作った人が価格を決められない委託販売という販売形態をとることが多く、価格が日々変動するため経営が不安定になる場合があります。
真心を込めて作った野菜のコストを計算し適正な価格で販売したい、というが生産者の思いです。
こうした動きに産直サイトはとても有効な販売チャンネルとなります。
食べチョクでも月に200から300件の生産者の新規取引申請があるそうです。
食べチョクの特徴はお客様と生産者が直接コミュニケーションをとることができるということです。
私たちは種蒔きから収穫まで、スイートコーンの成長の様子を食べチョク内にあるブログで発信し続けました。
するとそれを見ていただいたお客様が私たちの投稿に対してコメントをつけてくれました。そのコメントに対して私たちは返信をしました。
それを繰り返すことでお客様が商品に愛着を持ち、ブログの内容から生産者の人となりを感じることができます。
こうして「顔の見える生産者」となることで商品に付加価値が付き、スーパーなどと比較すると割高な価格であっても納得してご購入いただけます。
スイートコーンをお届けしたお客様から「おいしかったよ」など嬉しいコメントをたくさんいただけたのも、こうしたコミュニケーションの賜物だと思っています。
流通が変化し、生活スタイルが変化している、インターネット販売の時代になっている中、創意工夫をしながら様々なツールを活用し、時代の変化に素早く対応することがこれからの農業にとって必要なことだ、という聴講生の皆さんへのメッセージとなりました。
その後質疑応答があり、クラカアグリでの栽培品種の事やEC販売を行う際の販売戦略など、各々関心を持った事柄について意見が交わされました。
およそ3時間にわたる長い講義となりましたがお話させていただいたことが今後の農業活動のお役に立てれば、と思います。
受講していただいた皆さん、ご清聴ありがとうございました。